2.私の安全・救助に関する経験(その2)  大寺尉弘

  視界不良の方向不明による遭難
   大分以前に江の島で行なわれたレース(オリンピックウイーク)中に( 雨、視界不良、スタートマークから上マークが見えず、N系の風が8m/s程度のコンディション)、レース終了近くでフィニッシュ記録を記載した時に一隻未着が判明した。各マークの回航記録を照合した結果、470クラスの1隻が不明と判明した。既に日没も近いので運営艇全艇をスタート地点から風下側に捜査網を引き、同時に海上保安部へ救助要請を行い、FAXでレース委員会救助方針ならびに海象を報告したことで保安部はコンピューターで遭難艇の予想位置を算出し、夜間救助体制を大島を含めて艇の配置を行なった。恐らく完璧に近い救助体制であったが、一晩捜査をしたが見つからず翌朝に大島東で通りかかった貨物船に救助され2人の乗員は無事であった。この470クラスの遭難原因はティラーを折ったためにラダーが使用できなくなったことだ。メインセールを降ろし乗員はそのままセールに包まり保温して助かった。夜中に海上保安部の巡視艇が傍を通ったので大声を上げて助けを求めたが聞こえず通過してしまった。

この事故について、元日本ヨット協会レース委員で海上自衛隊潜水艦救助艇艦長の大寺尉弘氏は次のように言っている。

海という特殊な環境で救助されるという条件を少しでも多く実行に移すことが救助活動を助け、結果的に命を守れると言うことに繋がる。この条件について自分の経験などから述べてみたい。

(1)       海上では大声を張り上げても聞こえないもので、ホイッスルの使用が簡便で一番である。素の為に、ライフジャケットにホイッスルが付けられている。しかし、このホイッスルでは音量が小さいので、ヨット乗りは大音量のホイッスルを常時携帯する心がけが必要である。

(2)       ティラー破損であれば、スピンポールなどを利用して、応急ティラーとする着想がでなかったのか、またラダー無しの帆走練習をしておくべきである。


(3)       スピンネーカーをシーアンカーとして使用するという着想と技量があれば、流されるスピードを抑え、被発見の確率が高くなったのでないか。




   

(4)       前述されているが、ハーネスラインを付けたままセールの下に入った場合、ライフジャケットの浮力の為に、潜ろうにも潜れず、窒息をする恐れがあるので、素早くハーネスラインを外す訓練が必要である。このために必要なツールは常時身に付けておくべきである。(最近はナイフにプライヤー等が付いたマルチツールがあり、非常に重宝しているが、残念ながら片手では使用できない物もあるので、各セーラーが自分に最適な物を準備しておくのが良いだろう)

(5)       救助艇にはロープ付きの救命浮環を常備しているが、この使用方法を平素から訓練しておく必要がある。荒天の場合、風下から救助者に接近し救命浮環を投げても届かないことが多い。風上から接近して救命浮環を流すと容易に被救助者に届く。被救助者を救助艇に引き上げる際は、風上からあげるか、風下からあげるか、状況によって異なるが、風下からあげる際は救助艇の舷側で負傷させないように細心の注意が必要である。


(6)       船体を放棄し乗員のみを救助する際、救助される側としては、ロープが届いた場合に備え、片手でロープを保持し、片手でロープを脇の下を通し体の前方でモヤイ結びが出来るようにしておくことが必要である。(救助艇側としては、ロープ付きの救命浮環がない場合は、予めロープの先端に輪を作り、適当な浮力体をつけておく配慮が必要である)


(7)      万一に備え、救助艇のプロペラにプロペラガードを取り付けておくことも必要であると考える。




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