3.私の安全・救助に関する経験(その3)大谷たかお

3-1 最近のディンギーの傾向と救助

49er29er14ft(ダブルトラピーズ装備)など新式のディンギーが増えてきた。OP470505、ファイアーボール、レーザー、FJなどのクラスは、15m/s程度の風が吹いてもレースが出来る。最近のハイスピード・ディンギーは15m/s程度のエキサイティングさを67m/sの風速で体験できるように設計されているので、極端な強風では危険度も高くなっている。

救助をする場合、それぞれのクラスの特性を見極めて取組まないと適切な救助は難しい。また、新式のディンギーのハルは小さいので、波が高いと発見が難しくなる。これらのクラスは高いマストで、その調節の為にダイアモンドスティやダブルトラピーズが装備され、艇内はワイヤーやロープ類がクモの巣の様に張りめぐっていて、横転時に乗員がこれらに絡まないように細心の注意が必要となる。安全にキャプサイズ()艇に近づき作業するためには、ハードボトム型のゴムボート以外考えられない。現に世界中のトップ・レーサーのコーチボートは、このタイプのゴムボートが標準になっている。強い風波の中のボートを適切な位置に止めたり、風や波の方向を見極めたうえで、横転艇の動きの想定を読み込むなど高度な運転技術が要求されるのは言うまでもない。

3-2 救助の要点

(1)       キャプサイズ()時には、絶対に艇から離れてはならない。何らかの原因で艇から離される場合は、シートでも何でも艇に繋がっている物を掴む。(ティラーエックステンションは別。掴まないこと)

(2)       艇から放されると泳いで艇に戻る事は難しい。特に横転するような風が強い時は、艇体が横倒しのままで、かなりのスピードで流される。このスピードでは着衣泳(服を着たまま泳ぐこと)では、先ず追いつかないと思うこと。

(3)      ライフジャケットは浮力過剰なもの、あるいはフィットしていないものは、かえって危険である。セールの下敷きになった時や艇の下を潜るような時、浮きすぎで何処かに引っかかってしまうので、体重や体格にあったものをピタット着用すること。

(4)       風が弱い時わざと倒して沈をさせ、その艇で考えられているさまざまな沈起しのパターンを想定して練習する。トラピーズ・ハーネスが何処かにひっかかると、水面へ水面へ上がろうとして、なかなか外しにくくパニックに陥りやすい。そうした時は、自分からされに深く潜って、(目を開けて)何処かに引っかかった原因があるかを見極めれば、落ち着いて対処が出来る。ハーネスフック以外にも、ライフジャケット、シート類、ブーツなど思わぬ所に引っかかり、脱出できない事がある。

例えば

A:風波の非常に荒い時                                完全に艇から離されたら

B:逆沈してハーネスが引っかかりクルーが水面に出てこなかったら…・

C:セールの下敷きになった時
                               
   
の様なパニックを想定して

Aの場合

§     艇に追いつこうと全力で泳ぐ

§     あきらめて救助を待つ

§     風下にあるヨットハーバーへ泳ぐ

BCの場合

§     1人で沈起しする

§     大声で助けを呼ぶ

§     潜って引っかかっている原因を見つける

§     マウス・ツー・マウスで呼吸を助け救助を待つ

といったようなチャートをセーラー仲間がブレーンストーミングしながら作っておくと、いざといった時の判断の助けになる。

(5)       安全なギア

@     ハーネス側のボールとトラピーズ・ワイヤー側の組み合わせにより、引っかかる原因となるフックの無いハーネスで、フック自体が外れるトラピーズ・ハーネスなど開発されつつある。体格にあったハーネスがもちろんだが、こういった安全なトラピーズシステムの普及が急速に必要とされる。

A     ウェアは水温、気温にあったウェアで、ハイスピード・ディンギーでは、特にブカブカな衣料は危険である。例えば、ロング・ジョン型ウエットスーツとペトリングジャケット、足元はハイキンングブーツなどが適当である。

(6)       水中で適当なノット(結び)が出来るように訓練しておくことが必要。陸上で目をつぶって練習しておくと役に立つ。沈が起こせず、救助もなく、もう体力も無くなっていくと思われるときでも水中の体をきちんと繋いでおくという気構えが大切である。

4.終わりに   福島挙人

どんな規模の海の組織でも、大きなヨットクラブも小さなクラブでも、セーリング連盟、艇種別フリートでも、次の三つの事業が必要となるのではないだろうか。

(1)      ヨットレースを盛んにすること。特にポイントレースはディンギーもクルーザーも柱となるものだろう。

(2)      救助活動を含むセールボートの安全問題の確立。

(3)      セーラーが集まるバー、レストラン、喫茶店などをつくる。

その組織に属する、あるいは参加するセーラーが自前で、お金と労力を出し合いながら作り上げることだ。従って、安全の問題は安全だけが目的ではなくなる。もし、安全だけが目的ならば海に出なければ良いことになる。日本人は道具に凝りやすく、防御という観点より性能という一点豪華主義に陥りやすいのは今に始まったことではないだろう。そのような事にならない為にも前に挙げた三点のバランスを良く作り上げることが、末永い発展の保障になるのではないかと考える。ニュージーランドでは「WATER KILLS CARELESS」と幼少のうちから教育されている。安全の確保には特効薬はなく、アメリカ陸軍では次の標語で徹底してやると聞いたことがある。「KISS」の徹底(KISSKeep it simple, stupid :「簡潔に馬鹿正直にやれ!」)
                                        以上




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